行政書士ADRセンター研修会報告
去る12月3日、全会員を対象に県弁護士会の長瀬孝浩弁護士を講師に迎え第1回ADR研修会を開催しました(本会会館・参加者29名)。長瀬先生は平成21年度と28年度に県弁護士会の副会長を務められ、業務対策委員として行政書士ADRセンター設立にもたいへんご尽力いただきました。現在、出身地の松本市に事務所を開いてご活躍中です。
1 県弁護士会の紛争解決(ADR)センターの近況
長野県弁護士会は平成29年7月に弁護士会紛争解決センター(以下、「弁護士会ADRセンター」)を設立した(法務省の認証を受けていない非認証団体)。ADRによる紛争解決のメリットである「早い、安い、上手い」を活かし、基本的に弁護士会館や調停人弁護士の事務所でおこなうが、公民館で実施した例もあり利用者に使いやすく設定している。1件あたりの調停回数はおおむね2~3回となっている。
弁護士会ADRセンターの申立件数の推移
平成29年度 |
21件 |
平成30年度 |
17件 |
令和元年度 |
15件 ※うち2件は災害ADR |
令和2年度(11月現在) |
10件 |
資料提供:長瀬孝浩弁護士
申立件数は減少傾向にあり、東京など大きな弁護士会ほどその傾向は顕著。調停成立は申立件数の3分の1で、これらの申立はすべて弁護士からの紹介。元は100%弁護士が受けた相談事案である。
2 和解契約書の条項は慎重に
調停がうまく進んで和解に至ったら、待機している弁護士に条項をよく確認することをお勧めする。弁護士会でもこのトラブルが1件あった。
注意すべき点は以下の3つ
①給付条項:「いつまでに、どのように給付するか」
②懈怠約款:(分割払いの場合)「弁済が遅れた場合に期限の利益喪失を付けておく」
③清算条項:「債権債務の有無」を明記
「この件に関する債権債務がない」なのか「当事者間で包括的に(一切の)債権債務がない」なのかを確認する。
3 事例紹介 【預託金返還請求】
《事案の概要》当事者は高齢者(申立人)とその知人(相手方)
申立人は、10数年前、自宅で一人暮らし生活をしていた頃、親戚づきあいもなく身寄りもなかったところ、日頃より何かと面倒を見てくれていた相手方に、貯金の大半の金銭(2000万円余)を預けて、自分の老後の世話を託した。
その後、申立人は行政の支援を受け、介護施設に入所することになったため、相手方に対して預けた金銭の返還を求めた。
しかし、相手方は「もらったお金だ」として、返金に応じない。
《確認事項》
・契約書類は作らなかった
・たんす貯金だったので通帳の記録もない
◎申立人「2000万円余を預けた」に対し相手方「1000万円だった」と主張し双方譲らず
・相手方は、「自分でも使ったし他人に貸したら倒産されてお金はない」と説明
《手続の進行》
相手方が施設に出向くことを嫌ったため弁護士調停人は申立人と相手方、別々に話を聞くかたちで調停が進み、13回かかった特殊な例。
《結果》
相手方が保険を解約し300万円、不動産売却などで700万円を都合し合計1000万円を申立人に返すことになり、第10回調停で立会人の行政職員から解決を促す助言があり一旦まとまったが、第11回で申立人が「やっぱり納得できない」と言い合意は白紙に戻った。
その後、申立人の親族が「半分でも返してもらわないと1円も返ってこないよ」と助言し、親族が面倒をみるということで安心感が生まれ申立人の悔しさも緩和して、1000万円の返却で合意が成立した。和解契約書には清算条項「相手方が1000万円全額を支払ったら債権債務はなくなる」という条項を付けた。
4 感想
3の事例でADR調停の有効性を実感できました。また、一昨年の東京会・埼玉会現状調査で「実際の調停に勝る研修なし。実践は何よりも勉強になる」と言われましたが、長瀬弁護士の講義をお聴きして改めてそう思います。
コロナ禍で困難な状況が続きますが、市民がより利用しやすいADRセンターの運営と広報の必要性はもちろんのこと、行政書士会会員によるADRセンターの紹介・利用も呼びかけていく必要があると思いました。
外国人の就労就学に関するトラブル、民間の賃貸住宅の敷金礼金・原状回復に関する問題、自転車事故(自動車が関係しない事故)、ペットに関するトラブルについて相談されたら行政書士ADRセンターのことを思い出して下さい。ご連絡は県本会事務局へお願い致します。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
なお、1月21日(木)に、本年度第2回のADR研修会を開催致しました。
(ADR副センター長 深澤 和歌子(松本支部))
和田センター長あいさつ 研修会
弁護士長瀬孝浩先生(左から2人目)を囲んで